20090630

楽しいzineづくり、間に合うかなブックフェアに

7月10日(金)ー12日(日)東京で開催されるインディペンデントとアートのブックフェア「ZINE'S MATE」に合わせて、ただいま新作ジンを制作中です。葉っぱの坑夫がジンをつくるのは初めて。どんなものを作っているかというと。



左から:
「SMALL」(作・絵:島田雄一)
「NEZUMI KOZO」(写真:アリ・マルコポロス、テキスト:芥川龍之介)
「在日Koreanと南北朝鮮をよく知るための本と映画10選」(葉っぱの坑夫編)
「たった一つの、私のものではない名前」(テキスト:温又柔)


各ジンの内容は葉っぱのウェブサイトで紹介しています。

ジンづくりについて:
今つくっているジンはすべて同じA5サイズ、使用紙も同じ、とフォーマットを揃えました。ページ数は作品によって違います。同じ見え方の中に、違う内容のものを盛り込んでみたかったので。

紙はいろいろ研究、試作した結果、Bio Top Colorというオーストリア製のマットで少し嵩感のあるものを選びました。日本ではITOYAが輸入販売しています。この紙は色が豊富で、バニラとかサーモンとか微妙な色合いもあっていいのですが、白が1種類しかなく、しかも日本で好まれる「純白」のみ。ヨーロッパではナチュラルホワイトのようなクリームがかった色があるそうですが、日本では人気がないのか手に入りません。そこで今回は、白はやめて薄いグレーを使うことにしました。ジンはモノクロなので、モノクロの写真や絵、テキストにもこのグレーの紙はなかなかいい感じです。

一般に日本では印刷用紙として、白くて、光沢感のあるつやつや(つるつる)した紙が好まれるようです。マット系の紙も最近では好まれていると思うのですが、まだまだ少数派なのでしょうか。確かに表面がつるつるした紙の方が印刷したときの再現性は高いかもしれません。でも手にしたときの感触や、目で見たときのテクスチャーも大切ですし、好みはいろいろあるのですから、もう少しマット系、嵩感のある紙もあったらいいと思います。

嵩感というのは、同じ重さの紙でも、繊維が詰まっているかいないかで感触や厚みが変わってくることを言います。厚みといってもミクロンの世界ですが。日本では目の詰まった堅い紙が多く、一般にマットで嵩高い紙は高くなってしまうそうです。需要と供給の関係だと思いますが。今回選んだBio Topはヨーロッパの紙だけあって、嵩がややあり、柔らかな感触です。ジンは中綴じなので、あまり厚い紙は向かないので、80g/m2という紙を選びました。紙色によってはやや裏写りする場合もありますが、それはそれで面白く、手に持った感じでは100g/m2よりぴったりきます。特にページ数が30ページを超える場合は薄めの紙の方が良さそうです。

ジンというメディアは、「本をつくる」「書籍を企画する」よりも、もう少し気軽で、思いついたことをサッと形にする、といった即興性があるように思われます。それは出力の方法と関係していて、オフセットで印刷するなら最低でも500部くらいは作らないと割高になってしまうのに対し、フォトコピーで作るジンは基本的な単価は部数に関係なくほぼ一定です。だから最初20部くらい作っておいて、注文が来てからオンデマンドで作り足すことも可能。ただしKinko'sなどに依頼して作る場合は、単価的にはオフセットよりむしろ割高だと思います。でも1部400円かかっても、50部なら20,000円とポケットマネーで作れないこともないところが魅力。(ただしここで言うところのジンは、基本的にモノクロです)

フォトコピーと言っているのは、コピー機とレーザー出力が一体になったマシンで、紙原稿を用意してハードコピーするのも可能ですが、PDFなどのデータから出力する方がややきれいと聞きました。元になる原稿や作りたいテイストによってどちらにするか選べばいいと思います。いろいろ切り貼りした紙原稿を元原稿にするのも、仕上がり感に手跡が見えて楽しいものです。

フェアでは葉っぱの坑夫のジン以外に、"L'age de raison"というフランス語の小さな本もいっしょに置こうと思っています。アルザスに住む詩人Denis Emorineの作品で、寓話のような小話のようなごくごく短いお話です。英語訳の他、ポルトガル語、ルーマニア語、ドイツ語、ペルシア語、ギリシア語の翻訳リーフレットを用意しています。日本語版も間に合えば用意するつもり。英語のタイトルは"Age of reason." 小さな押し花がついた赤いカバーの本です。

それ以外には、葉っぱの坑夫の既刊本をブックフェア特別価格で販売しようかと考え中です。

20090622

オルタナティブなアートブックのフェア、ZINE'S MATEに参加

7月10日(金)ー12日(日)、東京の表参道と原宿の2会場で開催されるZINE'S MATE: TOKYO'S FIRST ART BOOK FAIR 2009。内外のオルタナティブな本のディストリビューションで知られる日本のユトレヒトとイギリスのPAPER BACK マガジンの主催で行なわれる、インディペンデント出版者(社)とアーティストの本の祭典、ブックフェア、第1回目。ニューヨークやソウルでこういうブックフェアが開かれていると聞いていたので、東京で始まるのは喜ばしいこと。東京国際ブックフェアの方は何回か行ったり、電子ブックのブースに参加したこともあるけれど、場所も規模も大きすぎてユニークな本との出会いの場、という雰囲気ではない。東京ビッグサイト、人の波、商業の場、そんな感じでした。

ZINE'S MATEの方は、主催者がインディペンデントの出版をやっていたり、それをディストリビュートしたりと、もともとがオルタナティブ思考。ビジュアルのアーティストたちとのネットワークがあり、ギャラリー展示や出張ブックストアも日本各地でたくさん企画、実施してきたところです。どちらかというとイラストレーションや写真など視覚系作品を介しているものが多いけれど、音楽系、テキスト系、ライフスタイル系、、、今を生きる人間の生活や思考を豊かにするものなら、それもオルタナティブなアプローチで、それを広い意味でのアートと捉えているのではないかな、と思います。


まだまだオルタナティブな本は出会いの場が少なく、またそういう出版者どうしが一つ所に集まることもないので、このフェアは新しい局面を開いてくれそうな予感がします。またアーティストたちにとっても、年に1回自分のつくったアートブックを発表する恰好の場になるのではないかと思います。葉っぱの坑夫も出展を決めてから、このフェアに合わせて新しい本の企画をいくつか考えてきました。今回は初めてzineをつくってみることにしました。フォトコピーによる、簡易な体裁の、つくる人の思いがシンプルに形になった、小さめのワンテーマ、一息、スピーディなプロセス、安価に買える、、、そのような本をジンというのではないか、と思っているのですが。スイスのNievesがジンで人気を集めたので、イラストや写真などビジュアルブックのことを指すのだと思っている人も多いと思いますが、元々はアメリカでパンクの人やミュージシャンやポエット、政治的に何か言いたい人、旅人、ユニークな暮らしをしている人、面白い発見をした人、自分の見方をもっている人、悩める人などなどが、主としてテキストで自己主張する場として生まれたメディアだったようです。Sweet Dreamsという音楽&カルチャーマガジンの主宰者から教えてもらって、わたしも目から鱗でした。そして実際に様々なジンを借りたり取り寄せたりして手に取ってみて、なるほど、、、と思うところ多々ありました。


今、葉っぱの坑夫が準備しているのは3つのジン。写真+テキストのジンが一つ、絵のみのジンが一つ、テキストのみのジンが一つ。もう少し形になったところでこのジャーナルで紹介できると思います。

ZINE’S MATE
TOKYO'S FIRST ART BOOK FAIR 2009
開催日:2009年7月10日(金)〜12日(日)
(7月9日夜にに招待制のプレビューあり)
会場:GRYE, Vacantほか
GYRE: gyre-omotesando.com
Vacant: www.n0idea.com

*葉っぱの坑夫はVacantの方に出展します。

20090601

オルタナティブメディアの勝利、ワールド・サッカーの世界

ヨーロッパのサッカー・シーズンも5月で終わり、ここからしばしの休憩に入る。08/09シーズンはCS放送でかなりたくさんの試合を見た。特に終盤になってからは重要な試合は、スケジュール帳に放映日をメモして見逃さないようにしていた。見るのはほとんどがJ SPORTSというスカパーやケーブルTVで見られるスポーツ専門放送局。これのおかげで主要なゲームがかなり見られる。NHK BSでもいくつかの試合は見られるし、地上波の民放ではフジテレビが深夜に放映することがたまにあるけれど、全体からみたらごく一部。たよりになるのはJ SPORTSである。放映する試合数だけでなく、放送内容のクォリティにおいても、ユニークさにおいても、既存の放送局と比べて勝っていると思う。

わたしがテレビでサッカーを見るようになったのはここ10年くらいのことだと思うが、見るのは100%ワールド・サッカー。つまりワールドカップであったり、ヨーロッパのクラブチームのゲームを見ている。最初は4年に一度のW杯くらいしか見ていなかった。それがだんだんクラブチームの試合やヨーロッパ杯にあたるチャンピオンズリーグまで見るようになった。なぜ欧州のサッカーかと言えば、そこがいま、世界のサッカーの中心地になっているからだ。日本をはじめ、南米、北米、それぞれにプロのクラブチームはあり、選手の行き来もある程度はあるが、ヨーロッパの人的交流の密度と層の厚さ、定着度と比べるとかなりの差があるだろう。

人的交流の密度が濃い欧州サッカー、世界中からクォリティの高い選手が集まり、その才能が世界最高の舞台を得て花開き、テレビ中継によってほぼ全世界に配信され、様々なメディアに流れ、信じられないような名プレイや伝説的エピソードも生まれる。。。そのような場となっている。

J SPORTSはジェイ・スポーツ・ブロードキャスティングという会社による専門放送局で、前身はイギリスの衛星放送局スカイ・スポーツと関係があるらしい。現在日本での試聴可能世帯は800万世帯弱。ケーブルや直接受信での有料放送である。スタートは1990年代(SKY sportsが1998年の開局)ということなので、日本がワールドカップ本大会初出場を果たしたフランス大会の1998年と重なり、ほぼわたしのテレビ観戦の経験とも重なる。

800万世帯、と言えば、テレビの世界で言えばオルタナティブに属するだろうし、実際の視聴者数はもっと少ないことが予想される。CS放送の契約はスカパーでもJCOMでも、普通は複数チャンネルのパックで申し込むことが多く、映画、ドラマ、ニュースなどと共にJ SPORTSの一部がスポーツチャンネルとしてパックの中に含まれている。だからJ SPORTSを見たことがない人も「視聴可能世帯」の中に数として入っているはずだ。

また知名度から言っても、J SPORTSと言って知ってるという人は、日本でマイナーなスポーツを見ている人がほとんどではないかと思う。バスケットボールとか、アイスホッケーとか、モータースポーツとか、サッカーとか。

わたしが見るのはワールド・サッカーのみなので、サッカーの番組について言うと、このオルタナティブ放送局の番組づくり、実況アナウンサー、コメンテーターはなかなかユニークなものが多い。同じゲームを見るならば、まず民放のフジやNHK BSは選ばない。民放はまずコマーシャルが多すぎるし、実況が無駄に騒がしく、その上ゲスト・コメンテーターも含め、感情移入の多い発言に時間を取られ、実況にともなう情報、データが視聴者に充分知らされない。NHKはそれほど騒がしくはないが、特に面白いところもない。J SPORTS(1、2、ESPN、Plusの4局)も、実況アナウンサーやゲストによってバラツキはあるが、何人かの非常にユニークなパーソナリティがいて、楽しく見ることができる。それらの人々は試合実況において、豊富な知識とデータをクールに素早く提供し、選手や監督、クラブの状況、スタジアムの歴史、ときに背景にある文化状況やその国のサッカー史についてもさらりと教えてくれる教養の高さがある。また実況だけでなく、いくつかある試合前のプレビューショー、トーク番組などの情報番組でも活躍している。

たとえばフリー・アナウンサー倉敷康雄さんによる「FOOT/World Soccer News」だとか、スポーツコメンテーター西岡明彦さんによる「E.N.G.ーイングランドサッカー情報番組」などは、見ていて面白いし、サッカーを取り巻く世界の様々な出来事、情報を伝えてくれて、サッカーから世界情勢をのぞきみるような側面もある。ゲストとして呼ぶコメンテーターにもユニークな顔ぶれが多く、共通しているのはどの人もサッカーを非常によく知っていること、だから発言がすっきり、クール、それでいてトピック豊富。それらの人々には元プレイヤーだったりやサッカー専門誌の編集者だったりする人もいて、言語能力に優れ、スペイン、ブラジルなど海外に拠点を置いて、そこからのレポートやプレイヤーへのインタビュー映像などもしばしば送ってきたりする。ものの見方、視点の置き方、興味の方向性に自然に世界性が備わっていて、海外プレヤーたちとの会話もフレンドリーかつ的確。低予算から取材スタッフの数はごく少数と思われるが、内容的にも、インタビューする相手との距離の取り方も、地上波民放やNHKのスポーツ番組では見たことのないレベル、感じの良さである。

オルタナティブ放送局だけあって、スタジオのしつらえから取材スタッフの要員数まで低予算であることは見ていてわかる。でもその分、コマーシャルが少ないので番組を落ちついて見ていられるし、いろいろ面白い点もある。たとえば「FOOT」では話題として取り上げている該当の試合の映像が(放映権がないため)流せないことが多々ある。そういうときは、絵に描いたもの(イラスト)で見せるのである。テレビに静止画! しかもスポーツ番組で!! 最初は奇妙な感覚と映像が見られない苛立ちがあったものの、慣れてしまえばそれはそれは。しかも「いつものように、内巻敦子さんのステキなイラストでご紹介します」と倉敷アナウンサーに楽しそうに言われてしまうと、苦笑しつつも納得。毎回見ていると、なるほど、と内巻さんのイラストにも親近感が湧いてくる。

「FOOT」にゲストコメンテーターとして時々登場する木村浩嗣さんは、サッカー専門誌「footbalista(フットボリスタ)編集長で、セビージャ(セビリア)在住。なんとこの雑誌(日本語による日本の雑誌です)、週刊だそうで、定期購読の方法の一つとして、朝刊といっしょに発売日の水曜日に配達される、というディストリビューションの方法もあるそうでユニーク。最近の木村さん登場の「FOOT」ではセビージャでの暮らしぶりやスペインのメディアの話、言語にまつわる話など、ゲームの話題だけでなく、サッカーとサッカーの地の文化状況についてもごく自然に語られていた。

ワールド・サッカーの面白さは、ダンスの舞台を見るようにゲームやプレイヤーのアートと言ってもいい世界レベルのクォリティを楽しむこともあるが、それに加えて多種多様な人種、民族、言語の混合、サッカーの背景にある歴史やそれぞれの国の文化状況、さらにはグローバル投資家たちのマネーゲームの実体まで見えてきて、わたしたちが住む世界のリアルを実感するきっかけにもなる。そういうポイントを的確に拾って、解説したり、紹介したりできる人材が、日本のオルタナティブな放送局、スポーツ専門チャンネルに存在することは、日本のブロードキャストも捨てたものではない、と思えて嬉しい。