20131125

PODで画集をつくる(2):アメリカ式、日本式


PODで本をつくるとき、著作権上可能であれば、日米両方のアマゾンで本をつくっている。日本とアメリカでは、PODに関して共通の部分もあるが、違うところもかなりある。

PDFでデータ入稿し、オンデマンド機で印刷するところは同じ。おそらく印刷機はほぼ同じものではないかと思う。日本では表紙のみカラー印刷ができるが、アメリカでは本文もカラー印刷に対応している。

アメリカのアマゾンは、協力会社としてCreateSpaceというセルフパブリッシュの企業を傘下に置いている。本の制作から販売、マーケティングまで、すべてここが請け負っている。ここの持っている出版までのプロセスの仕組は大変優れている、と以前にも書いた。ほとんどの過程がサイトを通してのオートマチックで行なわれる。出版直前の最終段階のみ、人手をつかってのチェックがあるようだが。

仕組の作り方、プロセスの懇切丁寧さから、対象の中にはごく普通の一般人も含まれていることが想像できる。本の登録までのほとんどの手順が、サイト上で簡単にできるようになっている。PDFで仕様に合う本さえつくることができれば、校正から販売経路の選択や値つけまでサクサクと進められる。

日本のアマゾンでは、PDFに変換するときの設定(印刷機に合うように)をマニュアルを見て、自分でやる必要がある。この部分は結構神経をつかう。その仕様をPDF変換のときの設定に登録してしまえばいいことだが。

今回のLine制作でわかったことは、CreateSpaceのPDFの仕様のチェックはかなりキチキチしている、ということ。また仕様に関するルールの更新もしているようで、前回OKだったことが、次にはチェックに引っかかるということもあった。

今回のLineでは、裁ち落としのデザインを選んだ。一本の線でずっと絵が繋がっていくことを表わすために、裁ち切りいっぱいまで絵がある方がいいと思ったのだ。裁ち落としでない方が問題は出にくいとはわかっていたが、これも実験の一つと考え挑戦した。が、仕様のチェックのところで、この裁ち落とし部分が問題になり、その修正で2、3週間費やすことになった。

不思議なのは最初の入稿時は、何の問題もなくチェックを通過したということ。本につかっている絵のスキャンデータのいくつかに、白地にわずかにスミが残っているものがあり(印刷されたものをルーペで見たら、小さなドットがあった)、修正した絵を入れ替えるという作業を行なった。絵を入れ替えたデータを入稿しようとしたら、CreateSpaceのプレビューのチェックに引っかかってしまったのだ。すべての裁ち落とし部分に1/8インチ以上の塗り足しをつけろ、という指示があった。1/8インチは3.175mm、日本のアマゾンの仕様は3.17mm以上の塗り足しだからほぼ同じ、でもセンチ換算では0.005mmアメリカの方が余分にいることになる。そこに引っかかったのか。

プレビュー画面を見ると、各ページの周囲四方に赤い枠取りが施されていて、すべてここを塗り足せと言っている。絵の内容が塗り足しを必要とするかしないかは問題ではない。たとえ上半分が白場であっても、絵のサイズは塗り足し分の1/8インチ以上の上乗せが必要ということだ。これはオートチェックの成せるわざだろう。

それですべてすべての絵のデータを、向こうの指定する1/8インチ以上(3.2mmにした)の塗り足しを分をつけたサイズに作り直した。これでOKだろうと思い、プレビューにかけたところ審査に通った。プレビュー上で、ノドのところの絵の重なりが気になったが、これはプレビュー上のことだろうと思った。というのは、日本のアマゾンでも、PDFのサイズはノド分も入れたものにしてくれという指示が来て(マニュアルではノド分はいらないとなっていたので、そのように制作したのだが、入稿時に、代理店からノド分も入れたサイズにしないと不具合が起きることがあると言われた)、サイズを修正した。そうやって作ったPDFの見映えは、ノドのところで絵が重なって見える。日本のアマゾンでは、それで問題なしだった。だからCreateSpaceの場合も同じだろうと思ったのだ。

ところが、念のため校正を取ってみて驚いた。ノドの塗り足し分がそのまま隣りページに印刷されている! CreateSpaceに何故こうなるのか、と訊いたところ、ノド分は塗り足しなしで作ってほしい、と言うではないか。ではあのプレビュー画面での四方の赤枠は何だったのだろう。もしノド分はいらないのなら、天地小口の三方のみ赤枠で囲うべきでは?

そうであればしかたない。また絵のデータを作り直すはめになった。ノド分を外したサイズの白キャンバスに、絵を乗せていく作業を延々とやった。それでチェックをかけたところ、2枚の絵にエラーが出た。InDesignでそのページを見てみると、ごくわずかに絵が裁ち切り線からずれていた。おー、このくらいのズレも感知するのだ。その部分を修正し、無事チェックを通過。今度は問題ないものが仕上がるだろう。

絵以外にも、このオートチェックによって引っかかった箇所が一つあった。ページに内に置く文字などのオブジェクトは、天地小口から0.635mm、ノドから0.9mm以上離すこと、というルールがあるのは知っていた。そしてそれに充分すぎるくらいのスペースを保っていたにも関わらず、そのアテンションが出た。何故なのかわからなかった。いろいろやってみて最終的にわかったのは、見た目では問題なくとも(実際のオブジェクトが範囲内に収まっていても)、たとえば文字のフレームが余分に伸びていれば、文字はなくともそこに何かある、と認識されるのだ。(全く同じ原稿だったにも関わらず、日本のアマゾンでは何の問題もなかったのだが)

CreateSpaceでは、このオートチェックの審査を厳しくすることで、品質を保とうとしているのだろう。日本のアマゾンではある程度人手によってこの作業をし、目で見たもので判断しているのかもしれない。

アメリカのアマゾンが印刷実費で本を著者や版元に分けているのも、オートチェックによる合理化でコストを削減しているからできることなのだろうか。日本のアマゾンが著者も正価で買うシステムにしているのは、商売上のこと(版元が実費で購入して、アマゾン以外の書店で売ろうとするのを防ぐなど)ではないかと思っていたが、こういった仕組上の問題も影響しているのかもしれない。

CreateSpaceのプロダクツとしての仕上がりだが、裁断に問題があるように見えた。今回の本LineはB6判(日本ではコミックなどで馴染みあるサイズ)にしたのだが、裁断の際のばらつきがあって、1冊ずつ少しずつサイズが違う。絵が裁ち切りなので、きちんと裁断してもらわないと、微妙に絵の端が切れてしまう。アメリカでの作業上の問題かと思ったが、もしかしたらこのサイズが、アメリカではカスタムサイズになってしまうことからくるエラーかもしれないと思った。CreateSpaceでは標準的なものを中心にかなりの数のサイズを用意はしている。が、128mm×182mm(インチ換算されるので5.04" x 7.17"になる)のB6判は標準サイズではないので、サイズ設定や断裁の際に、エラーが起きる可能性をつくってしまうことは考えられる。

要するに、PODで本をつくるということは、なるべく向こうの仕組に沿って、エラーが起きにくい状態にしたもので進めるのがいいということだろう。標準化(スタンダード)に従うということだ。そのことをよく知った上で、PODでの出版を選べば、不満はなくなる。企画の段階から、PODの特徴をふまえて何をどう表現するかを考えるということだ。

好きなように思ったことができないなら、PODでの出版は選ばない、という選択肢はもちろんある。それはメリットと天秤にかけて、何を選ぶかということだ。PODの技術は今後もっと進んでいくだろうから、それに期待して今からつかっていく、という考え方もある。

本はあくまでも内容で勝負、というペーパーバックでの出版が盛んなアメリカと、装幀や紙の質、内容にあった造本などに心を砕き、新刊ではハードカバーが中心の日本。このあたりの差も、それぞれのPODの仕組のあり方に出ている気がする。標準化ということに関しては、日本は心理的に馴染みにくいところがあり、それは今の世の中において各方面で苦戦している原因の一つにもなっている。

20131119

PODで画集をつくる(1):可能それとも不可能?


去年の5月頃、POD(プリント・オン・デマンド)で絵の本をつくる実験をしてみたいと思い、イラストレーターのミヤギユカリさんに声をかけた。10年くらい前に、オンデマンド印刷機で詩画集をつくったことはあった。その頃と比べて、印刷機も進歩していることだろうし、最近はカラーのオンデマンド印刷も一般的になってきている。アマゾンのPODの仕組をつかって画集をつくってみたいと思った。

テキスト系の本はすでに何冊か日米両方のアマゾンでつくっており、ほぼ満足しているので、ぜひビジュアルの本でも挑戦してみたかった。

オンデマンド印刷の特徴として、画像のハーフトーンや塗りはあまり得意ではない。特に写真は適さないと言われている。線画のドローイングに適正があることをミヤギさんには説明し、しかしハーフトーンの絵の仕上がりも、実験としては見てみたいと話をした。

そうやって出来たのが、先日発売になった「Line:それでも花は咲き今年も蝶がきてくれた」である。

本をつくっている間は、実験のことより、本の内容に集中していたが、こうして出版されると、全体を見渡して今回の実験が成功だったのか失敗だったのか、改めて判定を下したいと思った。

PODで画集がつくれるか、と問われたら、できるとまずは答えたい。その上で、その本によって何を表現したいのかをクリアにすること、を条件にあげたい。印刷と一口に言っても、その仕上がりにはピンからキリまである。出版物の目的によって、何を選ぶか選べる時代になった。

たとえば海外サッカー誌にフットボリスタという週刊のものがあって(現在は月刊)、ヨーロッパのサッカー情報を、紙の雑誌ながらいち早く伝えていた。週末の試合が、次の週半ばには載っているというようなスピードだったと思う。日本語の雑誌だが、編集長(日本人)はスペイン在住、インターネットにより編集もデザインもすべて、データでできるので問題はないようだった。カラー印刷されたその雑誌は、サッカー情報誌としては問題のないクォリティだったと思う。パッと見て印刷が少し粗い感じはあったが、それを問題にする読者はいないと思う。

その一方で、写真集などで、有能なプリントディレクターがついて印刷する、精度の高い印刷の本がある。プリントディレクターの長年の経験をフルにつかい、満足いくまで何度も色校正を取り、というお金も時間もかかる印刷だ。素晴らしい写真を、最高レベルの印刷で見せる。それが目的であれば、そのやり方は正しいし、本の価格が高くなっても、一定の需要は見込めるのかもしれない。

またzine(ジン)のような、精度より作者が自分でつくったという手作り感が大事な本もある。ジンを見て、印刷や紙の質が悪いと文句を言う人はいないだろう。何をその簡易な本に込めるか、が大切なのだ。

ではPODはどんな本づくりを可能にしてくれるメディアなのだろうか。いくつか特徴があるのであげてみる。

1.アマゾンには本のデータが半永久的に保管されるので、品切れや絶版がない。
2.データ保管なので、更新データを送れば、改訂が簡単にできる。
3.版元や著者が、紙の本のように在庫を保管する必要がない。
4.本の印刷に初期コストがいらない。
(印刷コストはかかるが、本の注文後に利益から差し引いて支払う仕組)

制限事項としては:

1.著者や版元は、アマゾンの指定する形態(指定の仕様に従って出力したPDF)で、本のデータをつくる必要がある。
(難しくはないが、仕様に合ってないと印刷されない。基本的にデータ内容に関しては自己責任)

2.本のサイズやページ数は自由度が高いが、紙の選択や加工は種類があまりない。
(紙は白とクリームから選ぶ。表紙はカラーだが光沢仕上げ。アメリカのアマゾンは最近マットを選べるようになった)

3.日本のアマゾンでは校正がとれない。発売後に自分で正価で買う必要がある。
(アメリカのアマゾンでは、印刷実費で校正や、その後の製品を購入できる)

4.制限ではないが、本のデータとともに、書誌データをエクセルで提出する必要がある。(日本のアマゾン:このデータがそのままアマゾンのサイトに掲載されるはずだが、不具合がよく起きている。アメリカのアマゾンではサイトでフォームへの書き込み)

5.なか見!検索を希望するものは、別途タグなどを入れ込んだ違う仕様のPDFをつくり、担当部署に送る。(アメリカのアマゾンでは、入稿データをつかって自動的に制作される)

だいたいこんなところである。一から十まで、アマゾンの仕様に合うようにデータをつくらねばならない。やりなれない人には面倒だし、神経もつかうかもしれないが、POD出版による合理化は、これなしには進まない。

つまりPODの出版というのは、つくる側がアマゾンの仕組に合わせることで初めて、実現するものなのだ。個別にああしたい、こうできないか、などという希望はすべて叶わない。決まった仕様の中で、何ができるか、何をやるか、ということだ。

最初に書いた印刷の精度についても同様。PODの印刷には得意不得意があることをわかって、本をつくるのがいいと思う。本の目的、本の内容、仕上がり予測、こういうものを事前にクリアにすることが大事だ。

今年の7月に出した小説「私たちみんなが探してるゴロツキ」では、各扉ページの裏にモノクロの写真を入れた。PODでは写真印刷が不得意と知った上での写真の使用だ。今では遠い昔となったべトナム戦争のときの難民の少女の話なので、読者の想像力を喚起する目的で写真をつかおうと思った。写真は主としてアメリカ軍のカメラマンなどが撮ったもので、著作権がクリエイティブコモンズやパブリックドメインになっているものを使用した。そのため、高解像度のものがなく、写真を縮小してギリギリ間に合ったものもあった。しかし写真の精度を見せるものではないので、目的は一応果たしたと思っている。

このように、クォリティというのは、その目的や表現の意図の中で測られるものかもしれない。

こういう考え方が基本にあったので、PODで画集をつくるときも、何がどこまで出来るかを探ることに一つの意味があった。経験から、線画の表現には問題がないことはだいたいわかっていたが。

今回の印刷で、ハーフトーンやベタの仕上がりを見たところ、やはり得意ではないことが確認できた。オンデマンド印刷では、注文のたびに一冊ずつ刷るので、一回一回の仕上がりにも差がでる。ハーフトーンが気にならないくらいに馴染んで印刷できているものもある一方で、縦の印刷線が薄く見えているものもある。またごくたまにではあるが、黒ベタに細く白い筋が入ったものも1冊あった。

これらのことは、見る人によっても差があり、言われなければ気づかない人もいた。しかし、言われれば認識できるものは、やはり存在するものであり、この印刷法の欠点が現われていると見た方が公平だ。こうなる可能性があるとわかった上で、ハーフトーンやベタの画像をつかうか決めるのがいい。

次の機会にハーフトーンやベタの絵をつかうかどうか、それは本の意図次第だと思っている。多少の欠点は予測されても、その絵を入れたいと思えばつかうだろう。でもその状態ではダメだと思えば、他の印刷法を選ぶかもしれない。

表紙に関しては、日本のアマゾンでもカラー印刷ができる。カラーのオンデマンド機の精度はいいようだ。きれいに印刷できている。(アメリカでは本文のカラー印刷も可能)

今回の本づくりで、他にもたくさん学んだことがあった。特にアメリカのアマゾンでの制作については、かなり苦労もしたが、得るものも少なくなかった。アメリカのアマゾンのデータ受け入れシステムと、日本のアマゾンのそれとは、ルールがかなり違っていたのだ。それについては次回、また書きたい。