20130126

<2>安倍晋三首相の「愛国心教育」を基点に、これからの日本を考える


オバマ大統領の第二期就任式の模様を、ニューヨークタイムスが提供するYouTubeで全篇見ました。アメリカ合衆国という国の基盤は、建国以来、誰が大統領になっても変わらない確固たるものがあるにしても、やはりときの大統領によって、その国を国民とどのようなものとして共有するかは、かなり変わってくるものだと感じました。

この日、オバマ大統領は宣誓の際、4年前にも使用した奴隷解放の父リンカーン大統領が愛用した小さな聖書に、公民権運動のリーダー、キング牧師のものを重ねました。

開会の祈りを捧げたのは、公民権運動で夫を亡くした黒人女性でした。ブルックリン教会聖歌隊が歌うリパブリック讃歌で、ソロを歌ったのは若い黒人女性でした。ジェームス・テイラーがノータイでふらりと現われギター片手に短い歌をうたい、ゲイであることを公表しているキューバ系アメリカ人詩人の詩の朗読("One Today")がありました。大統領就任式での詩の朗読者として、初めての移民系の、ラテン系の、そして同性愛者の詩人であるそうです。

オバマ大統領自身の就任演説にも、この人ならではと思われる言葉がちりばめられていました。たとえば「一部の人がうまくやり、その他大勢の人が事を成せないとき、わたしたちの国が成功することはないと皆知っている」のような。「先駆者たちがしてきたことを、今課題として受け継ぐのは我々の世代だ」として「our journey is not complete until (......が果たせるまで、我々の旅は終わらない)」で始まる一節が何度も繰り返され、その一節の後ろに課題が次々にあげられました。それは女性や移民者、同性愛者などのマイノリティーが、社会で平等な扱いを受けるまで我々の旅は終わらない、と宣言したものでした。

そして最後にビヨンセによって歌われたのがアメリカ国歌でした。この一連の流れの中で、アメリカ国歌は収まる場所をみつけたようです。あるいはこれまでのアメリカ国歌に、新たな意味をつけ加えたのかもしれません。

20130119

安倍晋三首相の「愛国心教育」を基点に、これからの日本を考える


もしこの政権が続けば、これから行なわれていくであろう日本の「愛国心教育」を、調べたり考えたりしながらその意味を探り、1回800字前後で連続的に書いていこうと思います。参照する資料は、愛国心やその教育に関する発言や法律と、筆者大黒自身の「愛国心」と関連づけられる体験の二つを柱にします。参照する発言や法律は、出来るかぎりオリジナルから引くつもりです(発言者がこう言っていた、というような第三者によるブログなどからの又聞き情報ではなく)。また、各回で取り上げた問題について、読者や周辺の人々のコメントを、できれば海外の人も含めて取材し、掲載してみたいとも思っています。


<1>安倍晋三首相の「愛国心教育」を基点に、これからの日本を考える

小熊英二という社会学者の「社会を変えるには」(講談社現代新書、2012年8月刊)という本を読んでいたら、次のような言葉があり、しばし立ち止まりました。

『たとえばフランスでは、国旗は「自由・平等・友愛」のシンボルですから、国旗を掲げることと民主主義は両立しますし、「国旗を掲げた反戦運動」や「人種差別をなくすための愛国心教育」もありえます。植民地戦争を戦った国々では、勇敢な革命軍兵士であることと、独立後の国家を愛することは、民主主義と両立します。』

えっ、人種差別をなくすための愛国心教育、というものがあり得るのか、と思いました。同じ「愛国心教育」でも、その国の成り立ちや状況いかんで意味合いがまったく変わってくるのかもしれない、と気づいた瞬間でした。

日本では「人種差別をなくすための愛国心教育」が成り立つでしょうか。現代の日本でです。小熊英二氏は次にこのように書いています。

『ところが戦後日本では、そういう関係が成りたちませんでした。保守政党の側が、そういう「愛国心」や「民主主義」の多様性にたいする想像力をまったく欠いたまま、たんなる戦前回帰を「愛国心」の名のもとに押しつけようとしたことが、最大の原因であることはいうまでもありません。』

確かに、「日の丸」と「君が代」を思い浮かべたとき、国旗を掲げて反戦運動をしたり、人種差別に反対する活動で「君が代」が愛唱歌となるところは、想像するのが難しいです。では日本でいうところの「愛国心」とは、何を目指しているのでしょう。何となら相性がいいのでしょう。

「愛国心」「日の丸」「君が代」でパッと浮かぶのは、右翼団体と言われる人々の車に付けられた日の丸だったり、マラソン競技の国際大会で日の丸の小旗を振る沿道の人々だったり、サッカーのワールドカップで、競技の前に選手が並んで歌う「君が代」だったりします。その光景から感じるものは人それぞれだと思います。ただわたしには、反戦や人種差別反対に繋がっていくようなものには見えない、という印象があります。