短期の視点、長期の視点
ものごとを見ていくとき、考えるとき、目の前で起きていることに集中していくタイプと、それを中心に据えながらも引いた視点=時間の前後左右(つまりは視点を引くと、境界もひろがるのだが)でとらえて現在の、見ようとしているもの、やろうとうとしていることに輪郭を与え意味を探り、周辺との関係性をはっきりさせていくタイプがあるように思う。わたし自身もそうであるが、一般的にも前者のタイプが多いのではないか。過去のことを調査し、踏まえ、さらには想像力や直観力をつかって先のことを予測しつつ、現在なすべきことを決定していくのは、なかなか難しいことだ。葉っぱの坑夫を始めて7年がたった。最近は国内外の、詩人や作家、アーティストの人たちから出版の相談を受けることもしばしばある。またショップやメディアから、本の取り扱いや取材などで声をかけてもらうことも増えた。とはいえ、まだたった10冊の紙の本と、それより少し多いウェブの出版物をつくってきただけだ。もちろん助言できることはするし、多少の手伝いをすることもある。またいっしょに本づくりに進む場合もある。葉っぱの坑夫自身、スタート時はゼロからの出発で、本(紙もウェブも)をつくることから流通のことまで手探りの状態だったから、そして多くの人からいろいろ有益な助言や協力をもらっているから、今度はそれをわたしの手から次の人たちにも渡していきたいという気持ちはある。
最初の話にもどると、この7年間は短期的視点で、それは初めてのことが多いのでやむなくであるが、その場その場の目の前にあることを追いかけ、思いつきによって進路を決めてきたようにも思える。目の前のことに集中してやってきたという意味で、無駄は多いながらも、身についたこと視えてきたこともあるから悪いことではない、とも思っているが。たとえば最初の紙の本「ニューヨーク、アパアト暮らし」は判型も小さく、数十ページしかない薄い本だが、その本たった1冊をもって、飛び込みで本屋まわりをし、仕入れ担当者から当惑のまなざしで見られたことは忘れられない。「この本1冊を、どの棚、どのコーナーで、どう扱えばいいんだ???」となるのは、今ならよおくわかる。少しはものが見えてきたのは、紙の本の出版物が数冊となり、簡単な手製のペラの出版カタログを作りだした頃からか。時間の経過によって、やっと長期的視点が少しは持てるようになったのだろう。
「本のとびら」という読売新聞が出しているフリーの冊子(出版マーケティング・レポート)から取材を受けた。10-11月号の巻頭ページで「シカ星」と「Town Dream / Dream Town」が紹介されている。デザインの観点から本をピックアップするページで、その第1回目への登場。この号(9号)の特集は「専門書出版の逆襲」というタイトルで、教育書出版の仮説社、建築のGA JAPAN、料理のアノニマ・スタジオが取り上げられている。読むとそれぞれとてもユニークで、取材記事も読みごたえある。参考になることも多く、出版をしている人、出版をしたい人、本の好きな人、などの関心に応えているのではないか。この号では中でも、GAの版元の方への取材が秀逸だった。出版物の専門性もそうだが、出版流通への独自の取り組み方、そして事業に対して長期的視点を見事に据えている点でも優れていると思った。「本のとびら」は、紀伊国屋、三省堂、丸善、青山ブックセンター、リブロ、ブックファーストなどの書店で配布されている他、ウェブでもバックナンバーの記事が読める。葉っぱの坑夫が掲載されている10-11月号も、次号が出たところでウェブに掲載されると思う。
本のとびらウェブサイト:
http://adv.yomiuri.co.jp/tobira/2007_8-9/index.html
*青山ブックセンター自由が丘支店で、「ミヤギユカリ・ブックフェア2007」というコーナー展開をやっています。葉っぱの坑夫の「シカ星」「Rabbit and Turtle」「Town Dream / Dream Town」の他、アートワレットPOKETOの「キリン」「ウサギ」も並んでいます。お近くに行った際はぜひのぞいてみてください。(11月初旬ごろまでを予定)