本が生まれ、流通し、読者の手元に渡る。それで本の世界が終わるわけではない。
その本にまつわる話がされ、批評され、誉められたりけなされたりする場が必要だ。わたしの印象では、日本ではこの書評の場というものが、侘しく寂しく、一方通行な感じがする。
日本で一番活発な書評の場と言えば、アマゾンのサイトのレビューではないだろうか。
アマゾンジャパンができたばかりの頃は、レビューがほとんどなく、ああこの文化はアメリカやヨーロッパのものなのか、、、とさびしく思っていたら、だんだん書く人が増え、中でもマイナーな本ほど活発なレビューがあったりして嬉しく思った。
余談だが、この頃、ノブナカヤマさんの「ハワイアン・ライト」という写真集のレビューを、アマゾンのサイトに書いたら、その年のベストレビュアー賞みたいなものをもらってしまった。ジェフ・ベゾスCEOの直筆の賞状(額入り!)が送られてきた。。。当時いかにレビューを書く人が少なかったかの証明のひとつ。
さて、アメリカのアマゾンのサイトでは、一般の人のレビューの他に、アマゾンのスタッフ(もしくはアマゾンが依頼した書評家)によるレビューが載ることもある。良い試みだと思うし、アマゾンが本や書評の世界を後押ししているイメージが伝わる。
今では当たり前のようになったこの企業側が設置したレビューサイト(もしくはスペース)だけれど、最初アメリカのアマゾンで見たときは驚いた。こんなに自由に一般人の書いたものを載せて、大丈夫なんだろうか?と。一つ星、二つ星をつけられて、さんざんなことを書かれたら、「商品に傷がつく」などと心配はしないのだろうか?というようなことだ。
まず日本の企業では無理だろう、と確信した。が、アメリカでやっていることは日本でも、ということなのか、アマゾンに関しては、日本でもレビューが始まった。おそらくアメリカで、一定の効果が上げられていたからだろう。そういう前例があれば、日本でもびくびくせずに始めることができる。他社がやって成功したことは、真似してもOKなのだから。
本を好きな人、ベストセラーだけでなく、マイナーな本も読み、わざわざレビューを投稿する人たちがちゃんと日本にもいる、ということがわかった。アマゾンの力である。
だけれども、アマゾンの外ではどうかというと、なかなかうまくはいっていないようにも見える。
ちょうど新刊を出したところなので、本を紹介したり、批評してくれるところを探していた。一般に、英語圏では、詩や文学に関するネット上のジャーナルのようなものは盛んだ。編集者や作家の顔が見えるようなスタイルで、マガジン形式で発行していたりする。日本は、となると、いろいろ当てをつけて探してみても、なかなか見つからない。コンテンツとお金が、結びつかないと登場するのが難しいのか。英語圏では、もっとパブリシティ的な役割や、作家を発掘する場として、文学ジャーナルは機能しているように見える。
「すばる」とか「新潮」とかの紙の文芸誌は、サイトをもっていても、紙の雑誌の宣伝(それもタイトルのみ)に終始しているように見える。それ自体で、コンテンツを紹介したり、書評を載せたり、受け入れたり、という姿勢はなさそうだ。ジャーナルと言えるようなものではない。これらの文芸誌はどれも刷り部数が少なく、読者が本屋さんで手にするのもままならないのだが、ネットをもっと活用すればいいのに、と以前から思っていた。
たとえば小説なり評論なり、書評やエッセイなど、プロの書くものと同居させる形で、一般から募集してもいいのではないか、と思う。広く開くことによって、文学にもっと活気をもたらすことだって可能だろう。
ところがこの「一般に募る」というところが、日本の社会では(あるいは企業では)いちばん苦手なのだ。理由はよくわからないが、面倒なことを引き受けたくない、ということかもしれない。あるいは、「消費者」は一生、消費者のままでいてほしい、という願いなのかもしれない。決して作り手や売り手の側には、来てほしくないのだ。あなたは買うだけ!
朝日新聞が大々的に宣伝して始めた、書評サイトBOOK asahi.comも侘しいサイトだ。「みんなのレビュー」という一般の人が投稿できる書評欄がある(ただし、はっきりと他と区別された区画で)。先日試しにここに登録してみた。最初にあった説明はごく簡単なもので、かなり不親切。
[アップロードはcsv形式のみ対応しています。ダブルクオートではさまれた、カンマ区切り10項目です。(ISBN13桁、ジャンル、★の数、読書ステータス、タイトル、レビュー本文、キーワード、作成日、更新日、読了日)日付はyyyy/mm/dd形式です。]
とあって少し例文が載っている程度。csvを知らない人はもうここであきらめるしかない。
試しに子ども用の洋書を登録してみた。何回もアラートが出る。タイトルに半角文字を使うなとか、キーワードは1つの単語で25文字以下にするように、など。
タイトルは、本のタイトルを書くのかと最初思って、英語で書いた。だめとわかり日本訳したものを入力した。するとキーワードの文字が25文字以上だからだめ、と出てきた。?? いや25文字以下ですが。でもキーワードの数が多すぎるのかな、と思い、減らしたりしていたら、突然! アップロード完了、と出てきた。
あとでわかったことだが、キーワードは「スペースを挟んで書くこと」と「レビューを編集する」のところへ行って、初めてわかった。ここに来るには、最初の登録を成功させなければ行き着けないのだから、不親切としかいいようがない。キーワードの区切りは、セミコロンなどでする場合もあり、スペースで切るのが常識ではない、と思う。最初のところでちゃんと説明するべきだろう。
また普通なら、ISBN13桁を入力すれば、自然に本のタイトル、著者名、出版社名が出るはずだが、この本に関しては、すべて空欄だった。洋書だから? でもアマゾンでも売ってるのだけれど。試しに別の本、東洋経済から出ている本をアップしてみたら、こちらはちゃんと表紙の画像も含めて、すべて正常に表示された。
そこで葉っぱの坑夫の新刊「私たちみんなが探してるゴロツキ」を登録してみた。ISBNを入れたにもかかわらず、表紙の画像も、タイトルも著者名も何も出ない。空白のままだ。おかしい。。。
ISBNという規格は世界的なもので、番号一本で、個別の本を特定できるはず。Book asahi.comは、ISBNを書け、と言っているけれど、サイトに反映させるのはどこかの(たとえば取次店)データベースに乗っているものだけ、とか? これについては、質問を朝日新聞にメールで送っているが、未だ返事はない。(すべての質問にお答えできるわけではありません、と確かに書いてあった。が、わたしが思うに、これは一種のバグだと思う。なにか原因を推測できる説明がほしい*)
とにかく、登録がしにくい、データベースがいいかげん、ということで、レビュアーが増えないのが現状のようで、みんなの本棚やレビューは、かなり寂しいムード。天下の朝日新聞が鳴り物入りで始めた書評サイトなのに。
日本で本を出版した場合、どうやってその存在を広く知らせたらいいのか。その方法はどれくらいあるのか、各サイト、メディアは、それに対してどれくらい開かれているのか。
いろいろサイトを見ていたら、個人の書評ブログがそれなりにあるらしいことがわかった。それを連携する場もあるみたいだ。そういうサイトの中から、本と相性のよさそうなところを探していくのも一つの方法、と思った。インターネットはフラットな世界だから、名のある大メディアが有効な場とは限らない。そこには希望がもてる。
*Book asahi.comでISBNを入れても、本のタイトルや著者名が出てこない理由が少しわかった。ISBNと本のタイトルを結びつけてデータベース化しているところ、たとえばBooks.or.jpに登録しておく必要がある。Book asahi.comではアマゾンが書店として書かれていたから、なんとなくアマゾンに本があればOKと思ってしまっていたが、それではダメなのだろう。試しに、すでにBooks.or.jpに登録してある本を、登録してみたら、本のタイトルなどが出てきた。そういうことだったのか。で、さっそく新刊もBooks.or.jpに登録をした。まだ反映されていないが、2、3日うちに認証されるのでは、と思う。そうしたらBook asahi.comで再登録すればいい。洋書はこの登録がどこにもされていない、ということなのだろう。それはそれで何とかした方がいいと思うが。洋書の書評だって必要だ。日本人だって、英語の本くらい読む。なにしろ小学校から英語の授業をする国になったのだから。
*朝日デジタルの担当者から返信のメールが届いた。本のタイトル等は、商用の書誌データベースを使用している、洋書は扱っていない、との返事だった。が、今日、書評サイトを見てみたら、、、洋書のタイトル、著者名も入っていた。洋書も扱えるようにしてくれたのだろうか???
ただ和書のタイトル、著者名、書影などが反映された登録の本も、キーワード検索にかからない。「経済援助」「ベトナム戦争」などのワードに対して出てくる本の中に、登録した本が含まれてこない。なぜなのだろうか。届いたメールに返信して訊いてみた。