PODで画集をつくる(2):アメリカ式、日本式
PODで本をつくるとき、著作権上可能であれば、日米両方のアマゾンで本をつくっている。日本とアメリカでは、PODに関して共通の部分もあるが、違うところもかなりある。
PDFでデータ入稿し、オンデマンド機で印刷するところは同じ。おそらく印刷機はほぼ同じものではないかと思う。日本では表紙のみカラー印刷ができるが、アメリカでは本文もカラー印刷に対応している。
アメリカのアマゾンは、協力会社としてCreateSpaceというセルフパブリッシュの企業を傘下に置いている。本の制作から販売、マーケティングまで、すべてここが請け負っている。ここの持っている出版までのプロセスの仕組は大変優れている、と以前にも書いた。ほとんどの過程がサイトを通してのオートマチックで行なわれる。出版直前の最終段階のみ、人手をつかってのチェックがあるようだが。
仕組の作り方、プロセスの懇切丁寧さから、対象の中にはごく普通の一般人も含まれていることが想像できる。本の登録までのほとんどの手順が、サイト上で簡単にできるようになっている。PDFで仕様に合う本さえつくることができれば、校正から販売経路の選択や値つけまでサクサクと進められる。
日本のアマゾンでは、PDFに変換するときの設定(印刷機に合うように)をマニュアルを見て、自分でやる必要がある。この部分は結構神経をつかう。その仕様をPDF変換のときの設定に登録してしまえばいいことだが。
今回のLine制作でわかったことは、CreateSpaceのPDFの仕様のチェックはかなりキチキチしている、ということ。また仕様に関するルールの更新もしているようで、前回OKだったことが、次にはチェックに引っかかるということもあった。
今回のLineでは、裁ち落としのデザインを選んだ。一本の線でずっと絵が繋がっていくことを表わすために、裁ち切りいっぱいまで絵がある方がいいと思ったのだ。裁ち落としでない方が問題は出にくいとはわかっていたが、これも実験の一つと考え挑戦した。が、仕様のチェックのところで、この裁ち落とし部分が問題になり、その修正で2、3週間費やすことになった。
不思議なのは最初の入稿時は、何の問題もなくチェックを通過したということ。本につかっている絵のスキャンデータのいくつかに、白地にわずかにスミが残っているものがあり(印刷されたものをルーペで見たら、小さなドットがあった)、修正した絵を入れ替えるという作業を行なった。絵を入れ替えたデータを入稿しようとしたら、CreateSpaceのプレビューのチェックに引っかかってしまったのだ。すべての裁ち落とし部分に1/8インチ以上の塗り足しをつけろ、という指示があった。1/8インチは3.175mm、日本のアマゾンの仕様は3.17mm以上の塗り足しだからほぼ同じ、でもセンチ換算では0.005mmアメリカの方が余分にいることになる。そこに引っかかったのか。
プレビュー画面を見ると、各ページの周囲四方に赤い枠取りが施されていて、すべてここを塗り足せと言っている。絵の内容が塗り足しを必要とするかしないかは問題ではない。たとえ上半分が白場であっても、絵のサイズは塗り足し分の1/8インチ以上の上乗せが必要ということだ。これはオートチェックの成せるわざだろう。
それですべてすべての絵のデータを、向こうの指定する1/8インチ以上(3.2mmにした)の塗り足しを分をつけたサイズに作り直した。これでOKだろうと思い、プレビューにかけたところ審査に通った。プレビュー上で、ノドのところの絵の重なりが気になったが、これはプレビュー上のことだろうと思った。というのは、日本のアマゾンでも、PDFのサイズはノド分も入れたものにしてくれという指示が来て(マニュアルではノド分はいらないとなっていたので、そのように制作したのだが、入稿時に、代理店からノド分も入れたサイズにしないと不具合が起きることがあると言われた)、サイズを修正した。そうやって作ったPDFの見映えは、ノドのところで絵が重なって見える。日本のアマゾンでは、それで問題なしだった。だからCreateSpaceの場合も同じだろうと思ったのだ。
ところが、念のため校正を取ってみて驚いた。ノドの塗り足し分がそのまま隣りページに印刷されている! CreateSpaceに何故こうなるのか、と訊いたところ、ノド分は塗り足しなしで作ってほしい、と言うではないか。ではあのプレビュー画面での四方の赤枠は何だったのだろう。もしノド分はいらないのなら、天地小口の三方のみ赤枠で囲うべきでは?
そうであればしかたない。また絵のデータを作り直すはめになった。ノド分を外したサイズの白キャンバスに、絵を乗せていく作業を延々とやった。それでチェックをかけたところ、2枚の絵にエラーが出た。InDesignでそのページを見てみると、ごくわずかに絵が裁ち切り線からずれていた。おー、このくらいのズレも感知するのだ。その部分を修正し、無事チェックを通過。今度は問題ないものが仕上がるだろう。
絵以外にも、このオートチェックによって引っかかった箇所が一つあった。ページに内に置く文字などのオブジェクトは、天地小口から0.635mm、ノドから0.9mm以上離すこと、というルールがあるのは知っていた。そしてそれに充分すぎるくらいのスペースを保っていたにも関わらず、そのアテンションが出た。何故なのかわからなかった。いろいろやってみて最終的にわかったのは、見た目では問題なくとも(実際のオブジェクトが範囲内に収まっていても)、たとえば文字のフレームが余分に伸びていれば、文字はなくともそこに何かある、と認識されるのだ。(全く同じ原稿だったにも関わらず、日本のアマゾンでは何の問題もなかったのだが)
CreateSpaceでは、このオートチェックの審査を厳しくすることで、品質を保とうとしているのだろう。日本のアマゾンではある程度人手によってこの作業をし、目で見たもので判断しているのかもしれない。
アメリカのアマゾンが印刷実費で本を著者や版元に分けているのも、オートチェックによる合理化でコストを削減しているからできることなのだろうか。日本のアマゾンが著者も正価で買うシステムにしているのは、商売上のこと(版元が実費で購入して、アマゾン以外の書店で売ろうとするのを防ぐなど)ではないかと思っていたが、こういった仕組上の問題も影響しているのかもしれない。
CreateSpaceのプロダクツとしての仕上がりだが、裁断に問題があるように見えた。今回の本LineはB6判(日本ではコミックなどで馴染みあるサイズ)にしたのだが、裁断の際のばらつきがあって、1冊ずつ少しずつサイズが違う。絵が裁ち切りなので、きちんと裁断してもらわないと、微妙に絵の端が切れてしまう。アメリカでの作業上の問題かと思ったが、もしかしたらこのサイズが、アメリカではカスタムサイズになってしまうことからくるエラーかもしれないと思った。CreateSpaceでは標準的なものを中心にかなりの数のサイズを用意はしている。が、128mm×182mm(インチ換算されるので5.04" x 7.17"になる)のB6判は標準サイズではないので、サイズ設定や断裁の際に、エラーが起きる可能性をつくってしまうことは考えられる。
要するに、PODで本をつくるということは、なるべく向こうの仕組に沿って、エラーが起きにくい状態にしたもので進めるのがいいということだろう。標準化(スタンダード)に従うということだ。そのことをよく知った上で、PODでの出版を選べば、不満はなくなる。企画の段階から、PODの特徴をふまえて何をどう表現するかを考えるということだ。
好きなように思ったことができないなら、PODでの出版は選ばない、という選択肢はもちろんある。それはメリットと天秤にかけて、何を選ぶかということだ。PODの技術は今後もっと進んでいくだろうから、それに期待して今からつかっていく、という考え方もある。
本はあくまでも内容で勝負、というペーパーバックでの出版が盛んなアメリカと、装幀や紙の質、内容にあった造本などに心を砕き、新刊ではハードカバーが中心の日本。このあたりの差も、それぞれのPODの仕組のあり方に出ている気がする。標準化ということに関しては、日本は心理的に馴染みにくいところがあり、それは今の世の中において各方面で苦戦している原因の一つにもなっている。