テニス界の新星、王子ズベロフと悪がきシャポバロフ
全米オープンテニスが始まった。今年最後の四大大会(グランドスラム)の話題はどこに向かうのだろう? 葉っぱの活動日誌ではたびたびスポーツの話題を取り上げている。その理由は、日本のスポーツジャーナリズムは貧しい状況にあるのではないか、と懸念しているからだ。このジャーナルで取り上げるることで、何が書ける試してみたいし、いつの日かスポーツに関する本を出せたら、と夢見ている。
ここのところのテニス界を見ていて高齢化現象というか、新人の出ない停滞状態がつづいているように感じていた。現在トップ5は全員30代という状態。新たに出てくる若い選手の顔が見えない。ここ2、3年は10代から20代初めの選手の動向を気にしてきた。
というのも、過去の有力選手(グランドスラムで優勝するような)が頭角をあらわすのは、たいてい20歳くらいで、そのあたりで一度大きな大会でチャンピオンになっている。しかしここのところ、そういう選手が見当たらなかったのだ。
たとえば今年36歳になったロジャー・フェデラー(1981年生まれ)は、20歳のとき、初めてマスターズ1000(グランドスラムの次の格付けの大会)で優勝している。11シードでの出場だった。その翌年の2003年、ウィンブルドンでグランドスラム初優勝。
そのフェデラーとグランドスラムなどで優勝を争ってきたラファエル・ナダル(1986年生まれ)は、2005年5月の全仏オープン(グランドスラム)で優勝、その年の10月にはマスターズ1000で優勝している。18歳のグランドスラム優勝だった。
現在怪我で試合から遠ざかっているが、ここ何年もの間、鉄壁の王者を保ってきたノバク・ジョコビッチ(1987年生まれ)はどうか。目の上のたんこぶのように、強力な2強フェデラーとナダルを前に何度もチャンスを奪われ、苦労の多い選手時代前半だったとも言われる。しかしそうは言っても、2007年、20歳のときにはマスターズ1000の準決勝でナダルを下し、初優勝。翌2008年1月には、決勝でフェデラーを下し、全豪オープン(グランドスラム)でチャンピオンになっている。ナダルとジョコビッチはたった1歳違いなのだが、ナダルは10代のときから活躍していたため、ジョコビッチは遅咲きと感じられたのかもしれない。ジョコビッチが世界1位になったのは24歳のとき、フェデラー、ナダルが22歳でなっていることから見るとやや遅いだろうか。
ではジョコビッチとここ数年トップを競ってきたアンディー・マレー(1987年生まれ)を見てみよう。2008年、決勝でジョコビッチに勝って、マスターズ1000初優勝(21歳)。そこから4年連続でマスターズを2勝ずつしているが、グランドスラムを取るのは2012年の全米オープンで、そのときマレーは25歳。ビッグ4と言われた4人の中では最も遅いグランドスラム獲得だ。また世界1位になったのも29歳と遅い。
このようにビッグ4と言われるような選手は、20歳前後のときに、大きな大会で一度は優勝を飾っている。そのような選手がここ数年見られなかったことで、次世代の選手は育っているのか、という疑問が出てきていた。
そこに現れたのが今年のマスターズ1000をすでに二つ制覇した、アレクサンダー・ズベロフだ。1997年生まれの20歳。ロシア系の名前がついているが、国籍はドイツ。198cmの長身で、(異論はあるかもしれないが)王子顔。ここ1、2年のうちにグランドスラム王者にでもなれば、日本の女の子のファンを増そうかという容貌である。マスターズはローマの決勝でジョコビッチを破り、モントリオールの決勝で(今年復活して強さを見せていた)フェデラーを破って優勝した。ローマは16シードでの優勝だったため、より際立つ存在となった。
ズベレフは2年前の2015年、初めてトップ100位入りし、翌年にトップ20、そして現在トップ10入り(2017.8.21現在で6位)している。例外はあるだろうが、多くの有望選手は、ある時期(20歳前後)にたいていこのような何段飛ばしのような躍進をしてトップに登りつめている。ズベレフも例外ではなさそうだ。
ズベレフの今年のマスターズの優勝の試合は二つともテレビで見たが、優勝できたのは、技術や実力もあるだろうが、伸び盛りの勢いが影響しているように思えた。それによって勝ちきっている。まだ若いので、プレイの粗さやエラーの多さなど欠点はあちこちに垣間見られたが、それを上まわる勝負強さが感じられた。これがないと、いいところまで行けても、チャンピオンにはなれないのではないか。
さてもう一人の若手、次世代のホープはデニス・シャポバロフ(1999年生まれ)。名前はロシア系だがイスラエル生まれのカナダ人。モントリオールのマスターズ1000で、ワイルドカード出場ながらこの大会シード1位のナダルを破って準決勝まで行き、そこでズベレフと対戦した。結果は4ー6、5−7で敗れたが、試合では充分存在価値を見せてカナダ人だけでなく、多くの聴衆を魅了していた。確かこの試合のときは140位くらいだったと思うが、試合後にトップ100入りを果たしている。
タイトルに悪がきと書いてしまったのは、シャポバロフは今年のデビスカップで、試合中に激怒してボールを打ち付けたところ、それが審判の目にあたり、失格となったというエピソードから。またサーブの前に、選手はみんなボールをポンポンと地面で弾ませるが、シャポ君(覚えにくいのでこう呼んでいる)はそのボールを背後で打ちつけて、股のあいだを通すという面白い習性があり、それがちょっと悪がきっぽい。またトレードマークのキャップの後ろかぶりも、悪がきの名に似合う。ただ本当に悪がきかどうかは、まだ一度しか試合を見ていないので何とも言えない。
シャポ君のズベレフとの試合ぶりを見ていて、この人はここ1、2年のうちにさらに頭角をあらわすのではないか、と多くの人が期待をもったのではないか。モントリオールでのズベレフとの準決勝は、ときどき粗さを見せながらも、勝負どころで強さを見せていたし、もし第2セットを取っていたら、と期待させるところがあった。しかしこの時点でシャポ君はまだ100位以下。ズベレフはこの大会第4シードと錦織圭より上で戦っていたのだから、結果は順当だと思う。
日本のスポーツ報道では、テニスといえば錦織圭(1989年生まれ)ばかりなので、それほどテニスを見ない人にとって、ここまで書いてきたことはやや不可解に映るかもしれない。錦織圭は日本のホープ、いや世界のホープ、次世代を担う若手選手じゃないのか?と。
確かにその兆しが見えた年はあったと思う。第10シードで出場した2014年の全米オープン、当時24歳だった錦織圭は準決勝でジョコビッチを破り、決勝に進出。しかし決勝では自分よりシード順位の低いマリン・チリッチ(1988年生まれ)にあっさりストレート負けしてしまった。期待が大きかっただけに、日本国じゅうが大きなため息をついたかもしれない。ここで勝っていれば次が見えたのに、と思う人もいるだろう。勝てる可能性の高い相手だっただけに、なおさら無念さが残る。
錦織は2014年にマスターズ1000の決勝に進んだものの、そこでナダルに敗れている。また2016年には2回マスターズの決勝に進んだが、ジョコビッチに敗れチャンピオンを逃している。大きな大会での優勝がここまでにないのだ。今年錦織は28歳になるが、怪我のためか今シーズンは全く結果を残せていない。しかし28歳はテニス選手の最盛期でもある。30歳まであと2年。この間に大きな大会(マスターズかグランドスラム)で優勝できるかどうかは重要だ。おそらく順位よりチャンピオンになる方が大切ではないか。
錦織が世界4位になった2015年、日本の国民は大きな期待をもった。そのとき25歳の誕生日をまだ迎えていなかったかもしれない。日本のメディアは「次世代を担う選手」として錦織の記事を書きつづけた。しかし次世代という言葉は当てはまらないかもしれない。ジョコビッチやマレーとは2年の差だ。錦織のピークへと向かう時期が遅かったので、次世代のように感じるかもしれないが、2、3歳の差は同世代と言っていい。全米オープンで負けた1歳上のチリッチや、1年下のラオニッチとともに、ジョコビッチ世代を形成する中堅選手と言ったほうがピッタリくる。
しかしここまでに上げてきた者たちと、全く違う活躍の仕方をしてきた選手もいる。1985年生まれのスタン・ワウリンカだ。現在32歳。それまで決勝に進んだこともなかったのに、2014年、28歳のとき、全豪オープンでグランドスラム初優勝を遂げた。決勝の相手はナダル。この年、マスターズ1000でも初優勝。さらに翌年の全仏オープンでは、ジョコビッチを破って優勝。このとき30歳。さらには2016年の全米オープンでも、ジョコビッチを破り、3度目のグランドスラム優勝を果たしている。このとき31歳。今年の全仏でも敗れはしたが決勝に進んでいる。グランドスラム残りの一つ、ウィンブルドンを取れば、生涯グランドスラム達成者の歴代9人目になるという快挙だ。
だから20代の終わりに初優勝を飾って、いくつものチャンピオンを制覇する人も、あまりないこととは言え、前例はあるのだ。
しかし通常の選手の進化の法則から言えば、やはり18歳のシャポ君、20歳のズベレフへの期待は高まる。シャポ君の方はまだ何も成していないので、未知数だ。ズベレフの方は、もしかしたら今年の全米オープンでいいところまで行くだけでなく、運が良ければ優勝もあるかもしれない。今の勢いの乗って。半ばファンになりかけているわたしは、それを期待しているのだけれど。シーズン残りは、全米が終われば、2、3の大きな大会があるだけ。やはり取るならグランドスラム、ズベレフには20歳でチャンピオンになり、新星ぶりを見せてほしい。
ここのところのテニス界を見ていて高齢化現象というか、新人の出ない停滞状態がつづいているように感じていた。現在トップ5は全員30代という状態。新たに出てくる若い選手の顔が見えない。ここ2、3年は10代から20代初めの選手の動向を気にしてきた。
というのも、過去の有力選手(グランドスラムで優勝するような)が頭角をあらわすのは、たいてい20歳くらいで、そのあたりで一度大きな大会でチャンピオンになっている。しかしここのところ、そういう選手が見当たらなかったのだ。
たとえば今年36歳になったロジャー・フェデラー(1981年生まれ)は、20歳のとき、初めてマスターズ1000(グランドスラムの次の格付けの大会)で優勝している。11シードでの出場だった。その翌年の2003年、ウィンブルドンでグランドスラム初優勝。
そのフェデラーとグランドスラムなどで優勝を争ってきたラファエル・ナダル(1986年生まれ)は、2005年5月の全仏オープン(グランドスラム)で優勝、その年の10月にはマスターズ1000で優勝している。18歳のグランドスラム優勝だった。
現在怪我で試合から遠ざかっているが、ここ何年もの間、鉄壁の王者を保ってきたノバク・ジョコビッチ(1987年生まれ)はどうか。目の上のたんこぶのように、強力な2強フェデラーとナダルを前に何度もチャンスを奪われ、苦労の多い選手時代前半だったとも言われる。しかしそうは言っても、2007年、20歳のときにはマスターズ1000の準決勝でナダルを下し、初優勝。翌2008年1月には、決勝でフェデラーを下し、全豪オープン(グランドスラム)でチャンピオンになっている。ナダルとジョコビッチはたった1歳違いなのだが、ナダルは10代のときから活躍していたため、ジョコビッチは遅咲きと感じられたのかもしれない。ジョコビッチが世界1位になったのは24歳のとき、フェデラー、ナダルが22歳でなっていることから見るとやや遅いだろうか。
ではジョコビッチとここ数年トップを競ってきたアンディー・マレー(1987年生まれ)を見てみよう。2008年、決勝でジョコビッチに勝って、マスターズ1000初優勝(21歳)。そこから4年連続でマスターズを2勝ずつしているが、グランドスラムを取るのは2012年の全米オープンで、そのときマレーは25歳。ビッグ4と言われた4人の中では最も遅いグランドスラム獲得だ。また世界1位になったのも29歳と遅い。
このようにビッグ4と言われるような選手は、20歳前後のときに、大きな大会で一度は優勝を飾っている。そのような選手がここ数年見られなかったことで、次世代の選手は育っているのか、という疑問が出てきていた。
そこに現れたのが今年のマスターズ1000をすでに二つ制覇した、アレクサンダー・ズベロフだ。1997年生まれの20歳。ロシア系の名前がついているが、国籍はドイツ。198cmの長身で、(異論はあるかもしれないが)王子顔。ここ1、2年のうちにグランドスラム王者にでもなれば、日本の女の子のファンを増そうかという容貌である。マスターズはローマの決勝でジョコビッチを破り、モントリオールの決勝で(今年復活して強さを見せていた)フェデラーを破って優勝した。ローマは16シードでの優勝だったため、より際立つ存在となった。
ズベレフは2年前の2015年、初めてトップ100位入りし、翌年にトップ20、そして現在トップ10入り(2017.8.21現在で6位)している。例外はあるだろうが、多くの有望選手は、ある時期(20歳前後)にたいていこのような何段飛ばしのような躍進をしてトップに登りつめている。ズベレフも例外ではなさそうだ。
ズベレフの今年のマスターズの優勝の試合は二つともテレビで見たが、優勝できたのは、技術や実力もあるだろうが、伸び盛りの勢いが影響しているように思えた。それによって勝ちきっている。まだ若いので、プレイの粗さやエラーの多さなど欠点はあちこちに垣間見られたが、それを上まわる勝負強さが感じられた。これがないと、いいところまで行けても、チャンピオンにはなれないのではないか。
さてもう一人の若手、次世代のホープはデニス・シャポバロフ(1999年生まれ)。名前はロシア系だがイスラエル生まれのカナダ人。モントリオールのマスターズ1000で、ワイルドカード出場ながらこの大会シード1位のナダルを破って準決勝まで行き、そこでズベレフと対戦した。結果は4ー6、5−7で敗れたが、試合では充分存在価値を見せてカナダ人だけでなく、多くの聴衆を魅了していた。確かこの試合のときは140位くらいだったと思うが、試合後にトップ100入りを果たしている。
タイトルに悪がきと書いてしまったのは、シャポバロフは今年のデビスカップで、試合中に激怒してボールを打ち付けたところ、それが審判の目にあたり、失格となったというエピソードから。またサーブの前に、選手はみんなボールをポンポンと地面で弾ませるが、シャポ君(覚えにくいのでこう呼んでいる)はそのボールを背後で打ちつけて、股のあいだを通すという面白い習性があり、それがちょっと悪がきっぽい。またトレードマークのキャップの後ろかぶりも、悪がきの名に似合う。ただ本当に悪がきかどうかは、まだ一度しか試合を見ていないので何とも言えない。
シャポ君のズベレフとの試合ぶりを見ていて、この人はここ1、2年のうちにさらに頭角をあらわすのではないか、と多くの人が期待をもったのではないか。モントリオールでのズベレフとの準決勝は、ときどき粗さを見せながらも、勝負どころで強さを見せていたし、もし第2セットを取っていたら、と期待させるところがあった。しかしこの時点でシャポ君はまだ100位以下。ズベレフはこの大会第4シードと錦織圭より上で戦っていたのだから、結果は順当だと思う。
日本のスポーツ報道では、テニスといえば錦織圭(1989年生まれ)ばかりなので、それほどテニスを見ない人にとって、ここまで書いてきたことはやや不可解に映るかもしれない。錦織圭は日本のホープ、いや世界のホープ、次世代を担う若手選手じゃないのか?と。
確かにその兆しが見えた年はあったと思う。第10シードで出場した2014年の全米オープン、当時24歳だった錦織圭は準決勝でジョコビッチを破り、決勝に進出。しかし決勝では自分よりシード順位の低いマリン・チリッチ(1988年生まれ)にあっさりストレート負けしてしまった。期待が大きかっただけに、日本国じゅうが大きなため息をついたかもしれない。ここで勝っていれば次が見えたのに、と思う人もいるだろう。勝てる可能性の高い相手だっただけに、なおさら無念さが残る。
錦織は2014年にマスターズ1000の決勝に進んだものの、そこでナダルに敗れている。また2016年には2回マスターズの決勝に進んだが、ジョコビッチに敗れチャンピオンを逃している。大きな大会での優勝がここまでにないのだ。今年錦織は28歳になるが、怪我のためか今シーズンは全く結果を残せていない。しかし28歳はテニス選手の最盛期でもある。30歳まであと2年。この間に大きな大会(マスターズかグランドスラム)で優勝できるかどうかは重要だ。おそらく順位よりチャンピオンになる方が大切ではないか。
錦織が世界4位になった2015年、日本の国民は大きな期待をもった。そのとき25歳の誕生日をまだ迎えていなかったかもしれない。日本のメディアは「次世代を担う選手」として錦織の記事を書きつづけた。しかし次世代という言葉は当てはまらないかもしれない。ジョコビッチやマレーとは2年の差だ。錦織のピークへと向かう時期が遅かったので、次世代のように感じるかもしれないが、2、3歳の差は同世代と言っていい。全米オープンで負けた1歳上のチリッチや、1年下のラオニッチとともに、ジョコビッチ世代を形成する中堅選手と言ったほうがピッタリくる。
しかしここまでに上げてきた者たちと、全く違う活躍の仕方をしてきた選手もいる。1985年生まれのスタン・ワウリンカだ。現在32歳。それまで決勝に進んだこともなかったのに、2014年、28歳のとき、全豪オープンでグランドスラム初優勝を遂げた。決勝の相手はナダル。この年、マスターズ1000でも初優勝。さらに翌年の全仏オープンでは、ジョコビッチを破って優勝。このとき30歳。さらには2016年の全米オープンでも、ジョコビッチを破り、3度目のグランドスラム優勝を果たしている。このとき31歳。今年の全仏でも敗れはしたが決勝に進んでいる。グランドスラム残りの一つ、ウィンブルドンを取れば、生涯グランドスラム達成者の歴代9人目になるという快挙だ。
だから20代の終わりに初優勝を飾って、いくつものチャンピオンを制覇する人も、あまりないこととは言え、前例はあるのだ。
しかし通常の選手の進化の法則から言えば、やはり18歳のシャポ君、20歳のズベレフへの期待は高まる。シャポ君の方はまだ何も成していないので、未知数だ。ズベレフの方は、もしかしたら今年の全米オープンでいいところまで行くだけでなく、運が良ければ優勝もあるかもしれない。今の勢いの乗って。半ばファンになりかけているわたしは、それを期待しているのだけれど。シーズン残りは、全米が終われば、2、3の大きな大会があるだけ。やはり取るならグランドスラム、ズベレフには20歳でチャンピオンになり、新星ぶりを見せてほしい。